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教育学ってなんだろう?-教育を外から見る-

みなさん、こんにちは。

ついに僕にも順番が回ってきました!今回のブログの担当は遠山です。

現在の所属は東京大学大学院教育学研究科ですが、3月末に修了(つまり卒業)するので、学生生活もあと1ヶ月を切った大学院生です。

 

今回のテーマは、「教育学」です。

これまで、ブリッジスクールではいくつかのテーマでブログを書いてきました。そこで扱われてきたどんなものよりも、この「教育」が皆さんにとって最もなじみ深いかもしれません。それは、ほぼすべての人が過去に教育を受けてきた、もしくは今受けているからです。

それでは、教育学は何をやっているのか?まずは、このことを考えてみてください。

 

 

 

どうでしょうか?

教育学ってこういうことだと自分なりの答えは何か見つかったでしょうか。

僕は、自信を持って言える答えをまだ持っていないというのが正直なところです。それでも、教育学を一言で表すとすれば「教育を対象とする学問全般」です。なんだか曖昧ですが、単に子どもの教育だけではなく、もっと広い教育(大人になってからの学びなど)も対象にしているので、こう言い表すしかないのかなと思っています。

 

教育(つまり、人の成長に関わるようなこと)を対象にしているという共通点はあっても、研究方法は様々です。

心理学の方法を使って「人間の学び」はどうなっているのかを探る研究もあれば、言語学を使って文法などから「教室の学び」の特徴を描き出そうという研究もあります。他には統計を使って、勉強方法とその成果の関連を見るという研究もあります。

 

今日は、こんな様々な方法で行われる教育学の研究をひとつ示してみようと思います。今までの教育のイメージとは違う「教育“学”」の世界を感じ取ってもらえたら嬉しいです。

 

例えば、「授業で子どもが活発に意見を言うために、子どもの発言に教師はどのように応答すればよいか」を明らかにしたいとします。

 

皆さんはどうでしょうか?

先生がこういうふうに声をかけてくれたときはすごく意見が言いやすかった、という経験はお持ちですか?

 

皆さんからの意見をまとめるという研究ももちろんできますが、今回は以下のようにしてみます。

今回は教師の「応答」に着目しているので、「授業の話し合いの中から教師の応答をいくつか抜き出してきて、その応答によって子どもの反応がどう違うのかを比べる」という手順です。

 

研究の流れに沿って整理すると、研究の目的を決め、どうやって明らかにするかを決め、その方法を実際に行って、結果を出してまとめるという流れになります。なんだか、理科の実験と似ていますよね。

具体的に見てみましょう。

 

 

【研究の流れ】

 

1)研究の目的

この研究の目的は「教師がどのような応答をすると、子どもは意見を言いやすくなるのか」を明らかにすることです。これが明らかになればこの研究は成功です。*1

ここで誤解が生じないように研究で使う言葉(用語)の意味を明確にしておきましょう。今回重要なのは、「教師の応答」ですから、これを「子どもの発言を受けて教師が発した言葉」と定義します。

 

2)研究の方法

この研究ではいくつかの「教師の応答」を抜き出してきて比較することで、教師がどのような応答をすると子どもが意見を言いやすくなるのかを明らかにします。

例えば、子どもは応答Aをすると黙ってしまったが、応答Bのときは活発に意見を言ったとなれば応答Bが活発な意見を引き出す応答と言えるわけですね。

 

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そして、それを明らかにするために、実際の授業を見学してデータを取る必要があります。普通はICレコーダーなどで教室のやり取りを録音したり、ビデオカメラなどで映像を撮ったりして、そのやり取りを全てパソコンで文字にします。

 

実際に授業の見学をしたとして、応答Aや応答Bといった分類には具体的にどのようなものがあるか考えます。

今回は分かりやすいように以下の3つの分類を用います。*2

α)受容…「そうだね。」などと子どもの考えを受け入れること。

β)疑問…「どういうこと?」などと子どもの意見について質問すること。

γ)反論…「それは違うんじゃないか?」などと子どもの意見に反論をすること。

 

 

3)結果

例えば、小学校の授業で自分たちの住む町をもっとよくするための方法を考えてきて発表する授業があったとしましょう。

 

みなさんが先生の立場になって「この町をもっとよくするためにどうしたらいいと思いますか?」と聞いたとして、

小学生の子どもが、「みんなが明るく過ごせるように、公園に花を植えるといいと思います。」と答えたら、次にどのような応答をしますか?

 

応答の仕方はいくつもありますが、例えば、先ほどの分類に則って考えると以下のような応答がありますね。

 

α)受容の場合

教師:この町をもっとよくするためにどうしたらいいと思いますか?

児童:みんなが明るく過ごせるように、公園に花を植えるといいと思います。

教師:そうですね。花を植えると景色がより明るくなるね。

児童:はい。ひまわりやマリーゴールドのような明るいものを植えたいです。

※この場合は、教師が子どもの意見を受け入れること(受容)でそれを受けて児童もさらに考えを発言していると分かります。

 

β)疑問の場合

教師:この町をもっとよくするためにどうしたらいいと思いますか?

児童:みんなが明るく過ごせるように、公園に花を植えるといいと思います。

教師:公園に花?どうしてお花を植えると町が良くなるの?

児童:えーっと、何もない公園より、お花があった方がカラフルで、楽しく過ごせそうだと思うからです。

※この場合は、教師が子どもの意見に対して疑問を投げかけることで、それに答える形で児童がさらに発言をしていると見てとれます。

 

γ)反論の場合

教師:この町をもっとよくするためにどうしたらいいと思いますか?

児童:みんなが明るく過ごせるように、公園に花を植えるといいと思います。

教師:公園に花かあ。公園にお花を植えるだけでは変わらないんじゃないかな。

児童:え、そ、そうかも…

※ここまではっきりと切り捨てる先生は実際にはいないと思いますが、この場合は、教師に反論されたことで黙ってしまったと見受けられます。

 

4)まとめ

上のような場合では、教師が受容や疑問という応答をした場合には子どもの発言が引き出され、反論をした場合では、子どもの発言にはつながらないということが分かりました。よって、教師が子どもの意見を引き出したいときは、受容や疑問という応答をすればいいのではないかという結論が得られます。

実際には、それぞれの分類についていくつのも授業場面(事例と言います)を集めてきて比較するため、教師の応答を受けたあとの子どもの反応も分類することもあります。そうすれば、教師がこういう応答をしたら、子どものこういう反応に繋がるという傾向が分かります。

すると、先ほどまでひとくくりにしていた受容と疑問の違いも明らかになります。例えば、受容に比べ、疑問を投げかけたときには子どもたちは自分の言ったことの理由などさらに深く考えさせることに繋がっていると言えるかもしれません。

 

以上のようにして、授業中に子どもが意見を言いやすくするためには「受容」や「疑問」を使うとよい、「疑問」によってさらに深く考えさせることもできる、という結論が得られました。

しかしながら、たまたまその発言をした子が反論されると黙ってしまう性格だったかもしれません。先生が怖かっただけかもしれません。まだまだ研究の対象にした事例が少ないので、今後も同じような研究をして本当にこのことが言えるのか確かめていく必要があります。

 

 

架空の事例で「教育“学”」では何が行われているかを簡単に説明してみましたがいかがだったでしょうか?

教育学部では、こうやって明らかになってきた指導方法を学んだり、実際に学生相手に模擬授業をしたりすることももちろんあります。

教育として皆さんの前にあらわれているものとは違いますが、日々いろいろな研究がなされて、教育を支えているんです。

学校で教えたり、子どもと関わったりするだけではない教育の世界を少しでも感じ取ってもらえたら嬉しいです。

*1:本来は、過去の研究をまとめ、明らかになってないこの部分を自分が明らかにするという形にします

*2:実際の研究では3つだけでは分類しきれないことの方が多いです。10個近い分類を用いることだってあります。