僕と物理学
こんにちは、高知県出身の大学3年生、長谷川響馬と申します。現在慶応義塾大学の物理学科に所属しています。
よく高校生の皆さんに、「勉強が好きになったのはいつからですか?」と聞かれます。僕はもともと勉強が好きではなく、むしろめんどくさいからやりたくないと考える人間でした。
そんな僕がどのようにして物理学にはまっていったかを書くことは、意外に需要があることかなと思い、このようなタイトルで書かせて頂きます。
今日に至るまで数多くの人との出会いが僕に学問そのものの深みを気付かせてくれました。前半では大学入学前に、物理を好きになるきっかけを与えてくれた二人の先生との出会いについて書きます。後半では大学入学後の勉強に対するモチベーションについて書きます。
1.僕を物理好きにさせた二人の先生との出会い
ⅰ.高校の物理教師、Y先生
一人目は高校の物理教師、Y先生です。Y先生のおかげで僕は物理が得意になり、そして好きになりました。
高校2年生の春から物理の本格的な授業が始まりました。その当時これといって得意科目がなく、「物理が得意ってかっこいい」と思ったので、授業初日に物理を受験の武器にしようと決めていました。表面のかっこよさばかり気にしていた所が、今思えば本当に僕らしい。
そして幸運にもこの物理のY先生がかなりの熱血先生。生徒が理解に達するまで決して妥協しない先生でした。
僕が高校3年時には、Y先生と一緒に東大の過去問を毎日解いていました。そうして僕が気付いた時には物理が一番の得意科目になり、それゆえ好きになりました。
ⅱ.浪人時代の物理科講師、YY先生
二人目は浪人時代の予備校教師、YY先生です。僕はYY先生の授業で物理と数学の関係を学び、さらに物理に惹かれていきました。
YY先生が僕に教えて下さったことは、物理学においてある問題が「わかった」と言えるのは、2種類の理解が必要だと言う事です。その2種類とは「直感で納得できること(定性的理解)」と、「数学的に説明できること(定量的理解)」です。
頭の体操だと思っていた数学が、物理における言葉なんだ、と知り衝撃を受けました。
例えば、ここにひとつの振り子があります。この振り子の玉が右端から、左端まで行って、もう一度右端まで帰ってくるまでの一往復する時間を周期と呼びます。
この振り子の周期に関する直感での納得(定性的理解)は
「周期は振り子の糸の長さだけで決まっていて、長いほど周期は大きくなる。」
数学的な説明(定量的理解)は
「(周期T 重力加速度g 糸の長さlとして)T=2√l / g」
となります。
このように数学で物理が美しく説明できる事に感動を覚えました。
物理学と数学との繋がりを知る事で、物理がより好きになったのです。
2.大学入学後の物理学へのモチベーション
ⅰ.モチベーションの喪失
そうしていよいよ大学入学。そこで高校と大学の大きな、大きな二つの違いに気付くのです。高校生のみなさんには僕の感じた大学の現状を、ありのまま知って頂きたいため、あえて率直に言います。
一つ目は、大学で真面目に勉強する人が非常に、ひじょーーーーー-に少ないこと!これはあくまで個人的な意見ですが、僕の友達の多くが同じように感じています。
周りの人達に影響されやすい自分にとって、勉強へのモチベーションは自然と下がりました。
少し話は逸れますが、勉強を真面目にしていないからといって、ダメな人達という訳では決してありません。
彼らは部活・サークル・バイトなど勉強以外の「何か」に大学生活を捧げています。そしてその活動を通して、勉強のみからでは得られない多くの事を学びます。
そうして卒業していった先輩方は、勉強を最低限しかしていないにも関わらず、今では第一線に立ち日本を引っ張っています。
そんな多くの先輩を知っているので、社会に出てからの活躍と勉強が必ずしも直結しないという事を書いておきます。
二つ目は、一方で自分より物凄く勉強ができる奴らがいることです。得意ゆえ持つことができたプライドはズタズタに引き裂かれました。
この二つの理由で、僕の勉強に対するモチベーションは行方不明となりました。
ⅱ.先輩との出会い
そんな中、アコースティックギターサークルの先輩方が、再び僕に物理の道を進む勇気を与えてくれました。
先輩方は明確な夢を持ち、夢に向かって真っすぐ努力していました。
さらに1年生である僕の何に興味があるのか。将来どうなりたいのか。様々な話を親身になって聞いて下さり、共感・応援してくれました。
そしてある先輩は僕にこう言ってくれました。
「俺たちは紛れもなく優秀だからここ(慶應大学)にいるんだ。それゆえに俺らはここでも尚、上を目指さなければならない。そんな、少し傲慢なプライドを俺達は持たなけらばならない。」
この言葉のおかげで、僕は自信をもって最も興味のある物理学に対して真っすぐにアプローチをしようと心に決めることができました。
大学で尊敬できる先輩方に出会えたのは、人生における宝だと感じています。
ⅲ.ライバルの出現
そして3年生の夏、僕はある研究機関の大学生向けのプログラムへ参加し、そこで京都大学生物専攻のM君と出会い、僕は完敗します。
彼の生物に対する知識量はすさまじく、また自分の持っている知識を人に伝える能力もあり、24時間生物について語れるような人間でした。そこで心から尊敬し、今すぐ追いついてやる、と思いました。
悔しさ、それが大きく僕を前進させました。イベントに積極的に参加することで良い刺激を得られる事も学びました。
ⅳ.物理学の魅力と初対面
僕が物理学の面白さ・奥深さに気付けたのは大学3年生の11月ぐらいでした。とにかく授業が面白かったです。
大学で面白い授業を見つける事は難しいですが大切です。
これが僕の3年秋学期の時間割です。この中でも特に、統計力学と量子力学は僕にとって高校物理よりもさらにエキサイティングな内容でした。
量子力学は分子や原子の小さな世界(ミクロ)の物理を記述し、統計力学は小さな世界(ミクロ)と大きな世界(マクロ)を繋ぐ橋のような機能を果たし、わかるととても面白いのです。
そして、この統計力学に未来の可能性を感じ、僕は春から物理学科の理論研究室にて、主に統計力学の理解を深めて卒業研究に入っていきます。
基礎固めから徐々に最先端の研究に入っていく移行期間にやっと突入している時期であり、物理が本当に楽しいです。
3.おわりに
「人との出会い」によって、僕は物理を好きになるきっかけを得、取り組み続けるモチベーションを得ました。
そして勉強を続けるうちに、「物理そのものの奥深さ」が僕を夢中にさせたのです。
多くの高校生にとって「なぜ勉強をするのか」という問は大きな難問です。勉強は面白くない事が多いし、そもそも何の役に立つのか分からない。
それでも、この問の答えを見つけたいのなら、勉強を続けてください。我慢し、勉強し続けてください。気付いたら学問が自身の面白さをちらつかせて来ますから。
そして勉強好きになったらもう、この疑問が浮かぶことなど二度とないでしょう。