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“雑草”ってなんだ?―雑草と人間の関係が織り成す科学―

みなさん、こんにちは。京都大学大学院に所属しております、野村康之と申します。

 

今回私が紹介するのは、雑草学」と呼ばれる学問です。これは、私が所属する雑草学研究室が専門としている学問です。これを読まれている方の中には、「雑草学……?」と思われている方もいることでしょう。「雑草って、道端に生えているあの“雑草……?」と想像されている方もいることでしょう。そうです、その「雑草」です。私たちは、その雑草と呼ばれる植物達を対象として日々研究をしています。

 

具体的な話をする前に、そもそも「雑草」とは何でしょうか? 「邪魔な草」、「道端に生えている草」、いろいろなことを想像されるかと思います。概して、私たちが想像する雑草には共通点が見られます。通常、高山や森に生える草を雑草とは言いませんよね。では、どのような草を「雑草」と呼んだら良いのでしょうか?

私たち雑草学者が扱う雑草は、おおむね次のように捉えてもらって構いません。雑草とは「私たち人間の活動によって生じた土地に初めに住み着き、私たちと生活を共にする植物」です。例えば、森を切り開いて作った田畑の中や、その近くで生活する草は雑草です。校庭や道路の隙間建物を壊して空き地にした場所などに真っ先に入ってくる草も雑草です。みなさんの雑草に抱く想像と合致するのではないでしょうか。

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図1. 開けた法面に生える雑草、チガヤ

 

そして、人間が切り開いた土地には、たいてい人間が望んだ植物しか生えていて欲しくないか、もしくはそもそも植物は生えていて欲しくないものです。例えば、雑草は作物の収穫量の低下の原因となるので田畑には生えていて欲しくないですし、視界を遮ったり景観を損なったりする原因となるので道路や校庭にも生えていて欲しくないですよね。これが、雑草が「邪魔な草」と言われる要因となっています。

では次に、「雑草」を対象として、どんな研究をしているかを紹介しましょう。詳細な研究は挙げればきりがありませんので今回は2つ紹介してみようと思います。

 

1つ目に紹介するのは、「除草剤抵抗性雑草」の研究です。先ほど挙げた田畑に生える雑草を例にしてみましょう。田畑で作物を作っていますと、雑草が生えてくるのは避けようがありません。なぜなら、作物を栽培するのに適した環境は、雑草がはびこるのにも最適な環境だからです。

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 図2. 水田に植えられたイネとその周りに生える雑草、コナギ

 

となれば、生えてくるのは仕方ないので、なんとかして駆除したい、となります。その要望に応える形で開発されたのが、「除草剤」です。「除草剤」には、あまり良い印象が無いかもしれませんが、多くの除草剤は(適切に扱えば)危険なものではありません。少なくとも、口に入る可能性のある作物などに使える除草剤は、その種類と使用量が厳しく取り決められています。また、多くの除草剤は、植物にしか存在しない生体内の反応経路を停止させるもので、その経路を持ってすらいない人間を含めた動物には効果が無いのです。ここらへんの詳細な話はいつかできると良いですが、ここではとりあえず置いておきましょう。

さて、除草剤を適切に処理しますと、作物を枯らすことなく、雑草だけを枯らすことができます。これは非常に楽で、農家の手間を低減させるのに、大いに貢献してきました。しかし、除草剤の使用により、ある問題が生じています。それが除草剤抵抗性雑草と呼ばれる雑草の出現です。つまり、除草剤の効かない雑草が出現したのです。除草剤抵抗性雑草の存在は、作物の収量低下の原因となり、日本に限らず世界的に大変な問題となっています。

ここで気になるのは、「雑草がどのような変化によって除草剤への抵抗性を身に付けたか」です。雑草学界隈ではこの話題は未だにホットで、新たな除草剤抵抗性雑草が見つかるたびに、どんな変化がその雑草に生じているのかを、みんな必死になって調査しています。そして、この研究が成就したあかつきには、どのようにしたら除草剤抵抗性雑草を駆除できるか、という実践的な内容につながっていくのです。

 

2つ目に紹介するのは「雑草の生活史特性」の研究です。例えば、校庭や自宅の庭を想像してみましょう。みなさんの中にも、夏休みに学校に行って校庭の、はたまたお手伝いの一環として自宅の庭の草抜きをした方もいるでしょう。ただただ草を抜き、きれいにする。除草した当日は良くても、一週間もすれば雑草は何事もなく復活する。ああ、なんと不毛なことでしょうか!(草は生えていますけど)

でも、冷静に考えてみますと抜いたはずの雑草は、どうして復活してしまうのでしょうか? 何も無い所から雑草が生えるはずもありません。私たちが除草してきた校庭や庭の土の中には、何かがあるのです。それは、雑草の種子です。雑草の性質の一つとして、成長が早く、そして素早く種子を残すという性質があります。

  

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図3. 土壌をふるいにかけたもの(上)とそこに含まれる雑草の種子(下)

 

なぜ、そのような性質があるかといえば、雑草が生育する環境にヒントがあります。雑草が生育する環境(すなわち人間活動のある環境)には、植物を破壊するような外部からの力が働きます。そのような力とは、何を隠そう、まさに人間活動そのものです。具体的に言えば、草を抜くとか、建物を建てるとか、人間が歩くだけでも時として植物を破壊しますね。そのような環境ですと、雑草にしてみればいつ自分が死んでしまうか予測できないわけです。となれば、なるべく早く自分の種子を残しておかないと、次世代につなぐことができません。

また、雑草は早く種子をつけると同時に、膨大な数の種子を残します。その数は、時に数万やそれ以上の桁となります。さらに厄介なことに、雑草の種子は休眠性を有します。休眠とは、その種子にとって発芽に適した環境でも発芽しない状態です。そして時間経過とともに、一定割合の種子が休眠から覚めていきます。休眠から覚めていれば、好適な環境で発芽します。種子を多産することや休眠性を有していることも、やはり雑草の生育地と関係があります。もし数少ない種子しか残さなければ絶対数が少ないですから、次の人間活動で全滅してしまうかもしれません。また、仮にたくさんの種子を残しても、休眠性を有していないために、次にやってきた好適な環境で全て発芽してしまったら、直後の人間活動で全滅してしまうかもしれません。

これらの、種子を早くたくさん残す性質や、種子が休眠する性質は全て、予測できない人間活動による全滅を防ぐ、リスク分散として効果を発揮しているのです。そういうわけで、私たちが草を抜くその前から、校庭や自宅の庭には膨大に積み重ねられてきた種子が存在し、結果として雑草を抜いても抜いても生えてくるという構図が出来上がるわけです。さらに言えば、雑草を抜くと地面に光が当たるので、土の中の休眠から覚めた種子にしてみれば好適な環境がやってきたこととなります、ゆえに、草抜きはむしろ種子からの発芽を促進するということになるのです。

さて、とは言いつつも、これは一般的な雑草の性質を述べたものです。詳細に見れば、上記の性質は各々の雑草で異なっています。発芽してから種子を残すまでの期間、種子の量、種子の休眠性の程度といった性質を詳細に調べていけば、雑草の生活がわかるとともに、雑草の防除にも役立てることができるのです。

 

例えば、雑草学ではこのような研究をしています。何となく概要が伝わったでしょうか? 他にも様々な研究がありますが、それはまたいつかの機会に。では、今回はこれでお開きにしましょう。